ユーザーイリュージョン 第9章

新しい仮説はこうだ。自覚は皮膚を刺激してから0.5秒後に生じる。しかし、あたかも脳が「誘発電位」を示した時点で生じたかのように経験される。主観的な時間の繰り上げが起こり、自覚はまだ始まっていないが脳が無意識のうちに反応した瞬間に、皮膚刺激が起きたように、意識の上では経験される。この瞬間は、皮膚刺激を自覚した時点より、皮膚刺激が与えられた時点に近い。主観的経験が時間的に繰り上げられる結果、EEGで「誘発電位」が記録された瞬間に意識が始動したように感じられる。この主観的感覚は、皮膚が実際に刺激されてから約0.02秒で生まれる。自覚が生じるのに必要な0.5秒よりずっと早い。EEGに現われる変化という、タイムマーカーの役割を果たす。「誘発電位」現象自体が、自覚を生じさせるわけではない。脳の電気活動が0.5秒間持続してはじめて、自覚が始まる。
言い換えれば、感覚皮質への刺激が体に投影されるのとまったく同じように、意識的経験が時間をさかのぼって投影されるのだ。

実際の知覚から時間を遡った地点に「主観的経験」というマーカーを設置する脳機能。脳が感じるまでの「遅れ」による知覚と現実の事象とのタイムラグを埋める役割?