聾患者の意識は健常者のそれとシステム的に同型か?


還元主義は意識の問題を解決しうるか。視覚意識や聴覚意識などのような特定modality毎に分解された意識というものは存在するか。(あるいは視覚的awarenessなどは存在しうるか。しかしawarenessはまた別の問題。)
仮にmodality毎に分解された意識があると仮定して、視覚入力の情報処理の結果として視覚意識が成立することになる。しかしsound-induced flash illusionの例からわかるように視覚意識の成立の過程に聴覚入力が干渉することは明らかである。すなわち視覚意識というものがあるとしてもそれは各modalityの入力がさまざまな形で干渉し合い統合された結果として成立するものである。解剖学的にも脳のwiringが各modalityが複雑に絡み合っており、特定のmodalityごとに分解できるようなものではないことからもこれは明らかであろう。同様のことが聴覚意識についてもいえるであろう。それならば、視覚意識というものは聴覚意識と別のものとして存在するのであろうか。つまりいずれのmodalityの意識も各modality間の干渉と統合の結果であるのに、それらがまったく別々のものとしてmodality毎に独立して存在しうるのであろうか*1。つまり意識をモダリティ毎のサブ意識として分解することは本当に可能なのであろうか。還元主義的方法論によって意識の問題は解決されることは考えにくい。
意識の問題に取り組む際に、視覚系を単独でその対象として選ぶのは上の理由から危ういと考える。視覚系からNCCを見つけることで意識の問題を解決する?ナンセンス。




別の話。聾患者*2の意識について考える。聾患者においては感覚入力のバランスが大きく崩れているわけだが、それではその意識は健常者のそれと同型のシステムとみなせるのであろうか。意識というものが各modality間の情報統合の結果として生じるものであるとするならば、聴覚という特定の入力が欠損している聾患者では意識はどのようなものになるだろうか。すなわち健常者のそれとシステム的同型性を有する意識が聾患者にも存在しうるのであろうか。聾患者には外部入力による聴覚神経活動はないが、聴覚野やその神経細胞は存在するし、神経細胞に自発発火現象があるのであれば、通常の聴覚入力とは別の何かが聴覚modalityからの神経活動として意識の成立に寄与するのかもしれない。また、特定のmodalityの欠損が別のモダリティの機能拡張につながる(その場合に欠損したmodalityの神経モジュールを転用する現象が知られている)ことがあるが、その場合modality間の情報の統合のバランスが変わることがあるだろうか。あるとすれば意識のシステム的同型性は崩れるだろうか。

  • Illusions. What you see is what you hear.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11130706
http://www.cns.atr.jp/~kmtn/pdf/shamsKamitaniShimojoNat00.pdf

  • Cross-modal plasticity in specific auditory cortices underlies visual compensations in the deaf

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20935644

*1:統合されるmodality毎の情報量に重みづけをすることによって弁別されたサブ意識を構成させる、という可能性は否定できない

*2:別に盲でもなんでもいい