PGO波と夢

ジュベーらは、ネコの大脳皮質・小脳・間脳を取り除いてもREM睡眠が消えないことを示した。このような手術を受けたネコは睡眠と覚醒を繰り返し、レム睡眠の特徴である急速眼球運動・PGO波・筋肉の緊張低下などを伴う睡眠が周期的に出現した。こういったレム睡眠の特徴は脳幹の橋背側部を壊すと完全に消失した。レム睡眠の特徴であるPGO波は、橋(Pons)・外側膝状体(lateral Geniculate body)・後頭皮質(Occipital cortex)から名付けられた。これはネコのREM睡眠中に橋・外側膝状体・後頭皮質から記録される電気活動で、その鋭い棘状の波形の特徴から棘波とも呼ばれている。PGO波はREM睡眠中の眼球運動を引き起こす。眼球が右に向かうときには右側の外側膝状体でPGO波の振幅が大きくなる。逆もまた然りである。PGO波の出現に伴って動物が夢幻様行動を示しという報告もある。ジュベーらは、脳幹にある青班核αという場所を局所的に破壊する実験を行っている。彼らによれば、青班核αの破壊は覚醒や徐波睡眠には影響しないが、普通のレム睡眠でみられる筋緊張の低下がおこらなくなる。筋緊張の低下なしにレム睡眠中のPGO波が発生すると、ネコは突然首を持ち立げてあたかも何かを見つめるように首を上下左右に動かしたり、ときには立ち上がって観察用のケージの中を歩き回る。このとき脳波・眼球運動・脈拍・呼吸などは通常のレム睡眠の場合と同じである。この夢幻様行動は、夢の幻覚によるものかもしれないが、橋に発生した信号が運動システムにもたらされ様々な行動パターンを引き起こしたとも考えられる。後者が正しいとすれば、橋に発生した信号は脳のいろいろな場所へもたらされ、視覚システムでは視覚的な夢を、運動システムで様々な運動パターンを引き起こすが、正常のレム睡眠では筋肉の緊張低下のため実際に運動パターンを生じることは少ない。青班核αが破壊されると、筋緊張低下が起こらないために、いろいろな運動が現れるということになる。PGO波はまとまった信号として脳の中で様々なイメージの流れを引き起こすかもしれない。すなわち過去の記憶内容の再現や視覚イメージなどである。これが夢の内容となるのかもしれない。