ユーザーイリュージョン 第8章

パヴロフは、脳の深奥部にある諸構造が、皮質全体に対して重要な役割を果たしていると指摘した。外界からの情報を実際に処理するのは皮質だが、皮質の活動レベルは視床をはじめとする深部の構造によって制御される。皮質の全般的活動レベル(皮質トーヌス)は、覚醒状態から睡眠状態まで様々に変化する。同様に、覚醒状態では、私たちが注意を向ける対象が変わるたびに、皮質状の活動位置が変化する。パヴロフは、こうした注意の移動を、「サーチライトの光が、活動の変化に合わせて皮質上を移動して照らし出す」模様になぞらえて捉えていた。

外界から入ってくる情報はほとんどが視床を介するし、視床は皮質からのフィードバックを受ける。

「通常、LGNは皮質への「中継」点と表現される。だが詳しく調べてみると、LGNのニューロンが受け取る情報の大半は、網膜からではなく(網膜からの情報は全体の20%未満)、脳内の他の中枢から来ている。... 網膜から脳に達する情報は、進行中の内的活動をわずかに攪乱するだけだ。内的活動は(この場合は視床レベルで)調整されることはあっても、指令を受けたりはしない。この点が肝心だ。神経活動プロセスを反表象主義の立場から理解するには、どんなものであれ媒体から伝わる攪乱は、システムの内的一貫性によって規定されるという点を指摘すれば事足りる」

マトゥラーナヴァレーラはこのように考えた。私たちに物が見えるのは網膜からの情報によってではなく、外界からのデータを内的活動と内部モデルに結びつけるための、広範囲にわたる内的処理の結果であると。

「物理学の務めが、自然のありようを突き止める事だと考えるのは間違っている。物理学にとって重要なのは、自然について我々が何を言いうるかだ」

ニールス・ボーアによる「コペンハーゲン解釈