視床フィルター機能不全仮説(Carlsson) 豊嶋良一 - 精神疾患100の仮説

視床は感覚情報を大脳皮質へ送る際のフィルターの機能を果たしている。また、大脳から基底核へのグルタミン酸伝達は基底核ニューロンを興奮させ、これが視床への抑制性の信号を伝え、視床のフィルターが閉じられる。不必要な感覚情報はこのようにして皮質への入力が遮断され、意識にのぼらない。基底核には他にも脳幹部からのドパミン作動性入力がある。ドパミン作動性ニューロンの多くは脳幹部に位置し、ドパミン受容体は特に基底核に多く、基底核の興奮を抑制する。ドパミンの活性化は基底核からの視床への抑制を抑制し、視床の感覚情報フィルターが機能しなくなることで情報が大脳皮質に多く届くようになる。Sz初期の多領域の感覚入力が意識に過剰に侵入・氾濫しているかのような訴えはこの機序によって説明されうる。抗精神病薬はこのドパミンを遮断する作用を通して大脳皮質機能を回復させると考えられる。Szの基底核においては抑制性ドパミン終末と興奮性グルタミン酸終末のバランスが不均衡になっていると仮定される。そうすればグルタミン酸受容体機能の阻害剤であるフェンサイクリジンでSz様症状が起きることも説明がつく。(相対的にドパミン過剰であることがSz様症状を説明するのであれば、Glu過剰ならどうか。視床の過剰フィルタリングで意識レベルが下がるか)統合失調症の少なくとも一部については、皮質下伝達物質の不均衡症候subcortical neurotransmitter imbalanceとそれによる視床フィルター機能不全によって生じるとの仮説が成り立つ。

還元論的ではなく双発論的な発想に基づいた新たな脳モデル。脳内2部間での神経回路が双方向性(再帰性)の結合reentrant loopで結ばれていることに注目し、再帰性結合による情報統合の障害がsz症状をもたらすと考える。本仮説も大脳皮質-基底核-視床-大脳皮質という再帰性回路網の異常の一つとして位置付けられている。

発症前- 複雑な情報を全体として意味あるまとまりに収束・統合する再帰性回路の機能が低い / 発症・再燃状態 - 回路特性のわずかな変動(神経伝達物質の不均衡など)で情報が収束しなくなる(脆弱性→機能的切断) / 残遺状態 - 破綻からの復旧は不完全にとどまり、情報統合は定時の水準に収束しがち。破綻が持続すると、カオス状態を固定する不良回路が形成され、二次的プロセスが進行する。

(1. Glu/Dopa imbalanceのモデル動物が作れるか?optogeneticsなど用いて。 / 2. Glu/Dopa imbalanceによる視床フィルターの異常とはどのような情報流の変化として表現できるか。 / 3. この変化はcortexにどのような変化をもたらすか。 / 4. Cortexの変化とSz症状の対応づけ(positive symptomはどのような皮質機能障害と対応するか、Negative symptomはどのようなメカニズムによってもたらされるのか。))

(参考 http://www.actioforma.net/kokikawa/kokikawa/association_cerebellum/associatiocerebellum.html